! 隠しだてしてはなりませぬぞ。この子のしゃぶっている棒あめは、どなたが与えたのじゃ」
「…………」
「だれぞかわいそうに思うて恵んだ者があるであろう。とがめるのではない。ちと必要があっておききしたいのじゃ。見れば、しゃぶらしてからまだ間もないようじゃが、どなたがお恵みなすったのじゃ」
「いえ、あの、それはだれも恵んだのではござりませぬ。初めからしゃぶっていたのでござります」
 いっぱいの人だかりを押し分けながら進み出て、てがら顔に答えたのは、このあたりの者らしい町家のご新造でした。
「わたしがいちばん最初にこの捨て子を見つけた当人でござりますゆえよく存じておりますが、初めからまんなかのその子ばかりがしゃぶっておりましてござります」
「しかとさようか」
「あい、うそ偽りではござりませぬ。わたしが見つけたほんのすぐまえにでも与えたものとみえて、まだまるのままのを持ってでござんした」
 聞くや同時です。とつぜん、ずばりと生きのいい右門流があいきょう者のところへ飛びました。
「それがわかりゃ、もうぞうさはあるめえ。はだしではんてんを着ていねえ子どもがふたり、どこかそこらの人込みの中に隠れてい
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