、この泰平な世の中に、そんなおかしな捨て子なんぞがあってたまるもんけえというんでね、さっそく飛んでいってみるてえと、――ほら、なんとかいいましたっけね、あそこの町のまんなかに大きな橋があるじゃござんせんか。ありゃなんといいましたっけね」
「どこの町だよ」
「日本橋の大通りにあるじゃござんせんか[#「ござんせんか」は底本では「ござせんか」]、東海道五十三次はあそこからというあの橋ですよ」
「あきれたやつだな。あいそがつきて笑えもしねえや。日本橋の大通りにある橋なら、日本橋じゃねえかよ」
「ちげえねえ、ちげえねえ。その日本橋の人通りのはげしい橋のたもとにね、目をくるくるさせながら、この子がころがっていたんだ。だから、ともかくこいつをはええところ抱きとっておくんなせえよ」
「受け取るはいいが、なんだってまた、おれがこれを受け取らなくちゃならねえんだ」
「じれってえだんなだな、捨て子はこの子がひとりじゃねんだ。まだあとふたりも同じようなのがころがっているんですよ。だから、あとのを運ぶに忙しいといってるんじゃござんせんか」
「ちぇッ、なんでえ。あきれけえったやつだな。それならそうと、最初からはっきりいやいいじゃねえか。手数をかけるにもほどがあらあ、あとのふたりは、どうして置いてきたんだ」
「どうもこうもねえんですよ。ねこや犬の子なら、三匹いようと八匹いようと驚くあっしじゃねえんだが、なにしろ人間の子ときちゃ物が物だからね、いっしょに運んでつぶしちゃならねえと思って、わいわい騒いでるやつらをしかりとばしながら、張り番させて置いてきたんですよ。売るにしろ、飼うにしろ、だんなにまずいちおうお目にかけてのことにしなくちゃと思ったからね」
「よくよくあきれけえったやつだな。急いでしたくをやんな」
「え……?」
「胡散《うさん》な捨て子が三人もあっちゃ、どうやらいわくがありそうだから、とち狂っていねえで、はええところしたくをしろといってるんだよ」
「ちッ、ありがてえ。だから、早起きもして、ふろ屋の三助ともけんかするもんさね。ざまあみろ。事がそうおいでなさりゃ、もうしめたものなんだ。それにしても、せわしいな、なんてまあこうせわしいんだろうね。――いやだよ、大将、おい、赤ん坊の大将、泣くな、泣くな。泣いちゃいやだよ。おじさんだってもこわくないぜ。ね、ほら、おもちゃがほしくば、この鼻の頭をしゃ
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