ゃねえんだ。一行半句もそんなことは書いちゃねえが、もう少し早起きすると何もかもわかるんですよ。朝起き三文の得といってね、寝る子は育つというなア数え年三つまでのことなんだ。四つそろそろかわいざかり、五つ歯ぬけに六ついたずら、七八九十はよみ書きそろばん、飛んで十五とくりゃもう元服なんだからね。ましてや、だんなのごとく二十五にも六にもなるいいわけえ者が、日の上がるまでも寝ているってことはねえんですよ。だから、あっしもね――」
「なにをつまらん講釈するんだ。そんなことをきいているんじゃねえ、赤ん坊のことをきいているんだよ。横町のふろ屋の三助がどうしたというんだよ」
「いいえ、そりゃそうですがね、全体物事というものは順序を追って話さねえといけねえんだ。これでなかなか、こういうふうに筋道をたてて話すということは、駆けだしのしろうとにゃできねえ芸当でね、なんの縁故もかかり合いもねえような話でも、順を追ってだんだんと話していけば、だんなも一つ一つとふにおちていくでしょうし、ふにおちりゃしたがって眼《がん》のつきもはええだろうと思って、せっかくあっしもこうしてつまらんようなことからお話しするんだが、だからね、朝起き三文の得というからにゃ、おいらだっても早起きしなくちゃなるめえとこういうわけで、けさも六つの鐘を耳にすると、すぐさまひとっぷろ浴びに行ったんですよ。するてえと、だんな、あんな三助ってえ野郎もねえものなんだ。いかに朝湯は熱いものと相場が決まっているにしても、まるでやけどをしそうなんですよ。ぜんたい、お湯屋というものは、だんなを前において講釈いうようだが、人間をゆでだこにするためにこしらえてあるんじゃねえ、からだをあっためるためにこしらえてあるんだからね、さっそくあっしがぱんぱんと啖呵《たんか》をきってやったんですよ。やい、バカ野郎ッ、こんな煮え湯をこしれえておいて、おいらをゆであげておいてから、あとで酢だこにでもする了見かい、と、こういってやったらね、三助の野郎がまたとんでもねえ啖呵をきりやがったんですよ。何をぬかしゃがるんだ、酢だこになりたくなけりゃかってに水をうめろ、それどころの騒ぎじゃねえんだ、通りの橋のたもとに、おかしな捨て子があるっていうんで、みんないま大騒ぎしているじゃねえか、と、こんなにいいやがったんですよ。だから、あっしもまた啖呵をきってやったんだ。べらぼうめ
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