のかぼそくやせ衰えている女の子をひしと抱きしめるように取りあげながら、おどおどと恐れおののいている小さな弟を従えて、物のけにつかれでもしているかのごとく、ふらふらと表のほうに歩きだしました。しかも、同じように黙って、ただ泣きなきずんずんと通りを右に折れながら曲がっていったので、ことごとく首をひねったのは伝あにいでした。
「はあてね。まさかに、唖《おし》じゃねえでしょうね」
「…………」
「え? だんな! どうしたんでしょうね。唖なら耳が聞こえねえはずだが、こっちのいうことはちゃんと通じているんだ。通じているのにものをいわねえとは、いったいどうしたんですかね。え? ちょいと!」
「…………」
「やりきれねえな。気味わるくおちついていねえで、なんとかおっしゃいませよ。下手人はこの小娘にちげえねえんだ。さっき目色を変えて飛び込んできやがったご新造たちの口うらから察してみても、あのふたりの太った赤ん坊を盗み出して捨て子にしたのは、たしかにこの小娘にちげえねえんですよ。ね! ちょっと! 黙ってちゃわからねえんだ。黙ってたんじゃ何もわからねえんだから、なんとかおっしゃいませよ」
 しかし、名人はなにごとか早くも看破せるもののごとく、黙々としてただ微笑しながら、小娘の行くほうへ行くほうへと、静かにそのあとを追いました。小娘もまた、あとをつけてきてくれたら、すべての秘密となぞが解けるといわぬばかりに、みどり子をひしと抱きながら、泣きなき歩きつづけました。――十軒店《じゅっけんだな》を左に折れて俗称願人坊主の小路といわれた伝右衛門《でんえもん》横町、その横町の狭い路地をどんどん奥へはいっていくと、奇怪です。不思議な小娘は、しめなわをものものしげに張りめぐらしたそこの右側の扶桑教《ふそうきょう》祈祷所《きとうしょ》と見える一軒へ、主従ふたりを誘うかのごとくにおどおどとはいりました。同時に、伝六が息ばりながら十手を斜《しゃ》に構えとって、たちまち音をあげたのは当然でした。
「ちくしょうッ、気味のわりいところへ連れてくりゃがったね。扶桑教といや、ちんちんもがもがの行者じゃねえですか。べらぼうめ、もったいらしくしめなわなんぞ張りめぐらしゃがって、きっと子ぬすっとのにせ行者にちげえねえんだ。さ! 出てみせろ。ただじゃおかねえんだから、出てみせろッ」
「あわてるな! がんがんと声をたてて、逃げう
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