首をはねのけると、まことに涙ぐみたくなるような右門流でした。
「手荒なまねをすりゃこわれちまわあ。――寒いとみえて、くちびるが紫色だな。ほら、これを首にでも巻いていな」
 おのが羽織をぬぎ取りながら、きょうだいふたりのえりもとへふんわりかけてやると、黙々としてややしばしじいっとふたりの面を見守っていましたが、じわり、その目に涙をためながら、やさしくいたわるようにいいました。
「二、三日何も食べないとみえて、だいぶおなかがすいているようじゃな。右門のおじさんの目に止まったからにゃ、どんなにでも力になってしんぜるぞ」
「…………」
「泣くでない、泣くでない。さぞかし、ひもじいだろうな。伝六ッ」
 用もないのに、こういうときにこそ、おらがだんなのすばらしいところをいばらねば、といわぬばかりで、群衆の間をあちらにまごまご、こちらにまごまごと泳ぎまわっていたあいきょう者を鋭く呼び招くと、ずばり命じました。
「そこの横町へはいれば、大福もち屋があるはずだ。大急ぎで百ばかり買ってきな」
「え? 百! 数の、あの、数の百ですかい」
「決まってらあ。数の百だったらどうだというんだ」
「いいえ、その、ちっと多すぎるんでね、残ったあとをどうするんかと心配しているんですよ」
「さもしいなぞをかけるな! 食べたかったら、おめえがいただきゃいいじゃねえか」
「ちッ、ありがてえ。おらがだんなは、諸事こういうふうに大まかにできているからな。ざまあみろ。やい、何をゲタゲタ笑ってるんだ。じゃまじゃねえか。大福もちが百がとこ買い出しに行くんだ。じゃまだよ、じゃまだよ。どきな! どきな!」
 勇みに勇んであいきょう者が飛び出していったのを見送りながら、いまかいまかと命令のあるのを待ちうけていた自身番詰めの小者たちをさし招くと、
「もうご用済みだ。だいじな赤ん坊にかぜでもひかしちゃならねえから、てつだってあっちへ運んでいきな」
 いいつけておいて、いたわりながら、おびえおののいているきょうだいふたりを橋向こうのその自身番小屋へいざなっていきました。

     3

 むろんのことに、すぐさま尋問を始めるだろうと思われたのに、そうではないのです。気の静まるまでというように、じいっと名人は静かにきょうだいふたりを見守ったままでした。
 ところへ、両わき両手いっぱいに大福もち包みをいくつかかかえながら、ふうふう
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