のご主君だよ」
「ちぇッ、三万石とはなんですかい。やけにまたちゃちなお殿さまだね」
「バカをいっちゃいかんよ。お禄高は三万石だが、藤堂近江守《とうどうおうみのかみ》様ご分家の岩槻藤堂《いわつきとうどう》様だ。さあ、忙しいぞ。駕籠だッ。早くしたくをやんな」
出るといっしょに打ち出したのはちょうど四ツ。いっさん走りに向かったのは、牛込|狸坂《たぬきざか》の岩槻藤堂家お上屋敷です。
「これからおめえの役だ。そこのお長屋門をへえりゃお小屋があるだろう。どこのうちでもいいから、うまいこと中間かじいやをひとり抱き込んで、屋敷の様子をとっくり洗ってきなよ」
「がってんだ。こういうことになると、これでおいらのおしゃべりあごもなかなかちょうほうなんだからね。細工はりゅうりゅう、お待ちなせえよ」
命を奉じて忙しいやつが吸われるように消えていったかと見えたが、ほどたたぬまに屋敷の中からおどり出てくると、得意顔に伝えました。
「眼《がん》の字、眼の字。やっぱりね。おかしなことがあるんですよ」
「なんだい。殿さまが座敷牢《ざしきろう》にでもおはいりかい」
「いいや、家老がね、なんの罪もねえのに、もう三月ごし
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