しを気がきかねえの役不足だのと、たなおろししなくたっていいですよ。おいらが光っていたひにゃ、だんなの後光がにぶくなるんだ。さしみにもつまってえいう、しゃれたものがあるんだからね。おいらのような江戸まえのすっきりしたさしみつまはおひざもとっ子の喜ぶやつさ。――えへへへ、ちくしょうめ、急にうれしくなりやがったな。そうと眼《がん》がついているなら、なにも好き好んでふくれるところはねえんだ。じゃなんですかい、その丑《うし》の時参りを押えとって、だんなのいつものからめ手|詮議《せんぎ》で糸をたぐっていったら、どこのどいつが、のろい参りのさむれえたちを、けさみてえにねらい討ちしているか、その下手人もぱんぱんと眼がつくだろうというんですかい」
「決まってらあ。いわし網を張るんじゃあるめえし、あば敬流儀に人足を狩り出すばかりが能じゃねえよ。あした早く、生き埋め行者と白旗金神と両方をこっそり調べにいってきな」
いうにゃ及ぶとばかり急ぐほどに、しとしと霧のような秋時雨《あきしぐれ》です。
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雨は朝になっていつのまにか本降りと変わり、まことに天地|蕭条《しょうじょう》、はらりはらりと風の
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