すり閻魔と名の高いそのお閻魔堂の境内でした。のっそり降りると、
「ウフフフフフ。ふくれているな」
 うれしいくらいにおちついたものでした。
「どうだえ、親方、ちっとはりこうになったかえ」
「え……?」
「またとぼけていやあがらあ。これが右門流の軍学というやつだ。かきねの外からすき見するほどの性悪だもの、あば敬なんぞといっしょに歩いていたひにゃ、じゃまされるに決まってるじゃねえか。おおかた、やつらは今ごろ妙見さまへ駆けつけて、きつねにでもつままれたような顔しているだろうよ。これからもあることだ、しっこいやつを追っ払うにはこうするんだから、よく覚えておきな」
「はあてね」
「何を感心しているんだよ」
「いいえね、向こうの木にすずめが止まっているんですよ。しみじみ見ると、すずめってやつめ変な鳥じゃござんせんかい」
「横言いうない。一本参ったら参ったと正直にいやいいんだ。それより、一件の物はどこにあるか、はええところかぎつけな」
 手分けしてそこの木立ちを抜けきるといっしょに、ふたりの目を強く射たものは、閻魔堂の正面にわいわいと集まっている人だかりです。
「寄るなッ、寄るなッ、寄ッちゃいかん!
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