かた、二三春のやつめ、ほれた男の江戸五郎が、嵐の三左衛門に人気をさらわれちまったんで、それがくやしさに水まきして歩いているにちげえねえんだ。三味線ひくやつだって、忍びの得手《えて》がねえとはかぎらねえよ。夜忍びするは男と決まったもんじゃねえからな」
「ちげえねえ。当節は江戸で、女の色忍びがはやるっていうからね、べらぼうめ、べっぴんのくせに、ふざけたまねしやがって、どうするか覚えてろ。江戸っ子のつらよごすにもほどがあるじゃねえか。じゃ、なんですかい、兄貴だとかいったあのさっきのこくのねえ野郎も、いっしょにしょっぴいてくるんですかい」
「あたりめえよ。おれゃ八丁堀でひと涼みしているから、あっちへつれてきな」
がってんとばかり伝六は宙を飛んで、その場に駒形河岸を目ざしました。
3
待つこと半刻《はんとき》――。
気楽な八丁堀のひとり住まいのお組屋敷で、すだれごしに流れはいる涼風をいっぱいにあびながら、例の右手をあごのあたりに散歩させつつ、ごろり横になってうつらうつらとしていると、
「だんな! だんな! いけねえ! いけねえ! もようが変わったんだ。もようが変わったんだ。ホ
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