た。しかも、その水しみが、あたかも今いった水芸でぽたりぽたりしずくをたらしたようなしみばかりなのです。当然のごとく、名人の目はさえ渡りました。天井から雨だれのようにでもたれおちた形跡があれば格別だが、申し合わせたように下半分へ、それもあきらかにへやの中からふりかけたらしい痕跡《こんせき》があるところを見ると、嵐三左衛門ならずとも、その下手人としての疑いを水芸達者の江戸五郎にかけたくなるのは当然なことだったからです。しかし、それにしても、ひと晩やふた晩ならともかく、十日のうえも寝ているへやの中へ忍びこまれて、しかもこれだけの水いたずらされながら、まるで知らないというのは、いかにも不思議といわざるをえない。
「ね……?」
「…………」
「箱根から東へはお化けも河童《かっぱ》も出ねえってことに相場が決まってるんだが、なにしろお盆がちけえんだからね。怨霊《おんりょう》のやつめ、三途《さんず》の川で見当まちげえやがって、お門違いのおひざもとへ迷ってきやがったかもしれませんぜ。ええ、そうですよ。そうですとも! たしかに、こりゃだれかの怨霊のしわざにちげえねえんですよ。そうでなくちゃ、だれにこんな気
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