とおっしゃりゃいいんだ。隠れておって意地わるくウフフとやるこたアねえでしょ。あっしが気どろうと納まろうと、大きなお世話です。はばかりながら――」
「人並みにおれにだってもあごがあるというのかい。あるにはあっても、どうやら、一山百文のあごのようだが、どうだな、安物でも、なでりゃ眼がつくかね」
「ちぇッ、顔を見せたとなるともうそれだ。口のわるいってたらありゃしねえや。じゃ、なんですかい、何もかもその陰で立ち聞きしたんですかい」
「さよう。あんまりおめえがいい心持ちそうに気どっていたのでな、なにごとかと思って、幽霊水の話も、江戸屋の江戸五郎とかの話もみんな聞いたのよ、気に入らないかね」
「またそれだ。なにもいちいちとそんなに陰にこもった言い方でひねらなくたっていいでしょ。いくら主従の間がらにしたって、人の話を立ち聞きするっていう法はねえんです。これが男どうしの公話だったからいいようなものの、もしもかわいい女の子とふたりで、いっしょに逃げましょう、ああ逃げようぜと道行き話でもしていたのだったら、どうするんですかい」
「ウフフフ、ぬかしたな。べつにどうもしねえのよ。おめえみたいな男とでも道行きす
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