事にかかりました。というと、いつのまにか伝六が棟梁《とうりょう》にでも商売替えをしたように思えるが、不思議なことに三年一日のごとく依然として岡《おか》っ引《ぴ》きなのですから、世の中にこのくらい出世のおそい男もまれです。だが、出世はおそくとも、なくて七徳、あって四十八徳、何のとりえもないように思えるこの伝六に、たった一つほめていいとりえがあるのですから、世の中はさらに不思議でした。おしゃべりに似合わず、いたって人情もろいというのがすなわちそれです。この暑いさなかに、ものものしい七つ道具を持ち出して、カンカンゴシゴシと、必死に大工のまねを始めたというのも、実をいうと名誉の最期をとげたあのかわいくて小さかった善光寺|辰《たつ》の新盆《にいぼん》が迫ってきたので、お手製の精霊《しょうりょう》だなをこしらえようというのでした。
「おこるなよ。なにもおめえが小さかったんで、からかうつもりでこんなちっちぇえ精霊だなをこしらえるんじゃねえんだが、しろうと大工の悲しさに、道具がいうことをきかねえんだ。気は心といってな、それもこれもみな兄貴のこのおれが、いまだにおめえのことを忘れかねるからのことなんだ。
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