出したあのかんざしが、二三春の持ち物であることは確かです。確かとしたなら、二三春に対する幽霊水の下手人としての疑いは、ますます深まるばかりでした。だのに、その二三春がいまや容易ならんことにも人手にかかっているのです。――当然のごとくに、三つの疑惑がわき上がりました。
幽霊水のほんとうの下手人はほかにあるのではないかという疑いがその一つ。
その者が罪を二三春に着せるために、かんざしを盗み取って、びょうぶの裏に刺してきたのではないかという疑いがその二つ。
それがあばかれそうになったので、罪をおおいかくさんために二三春を殺したのではないかという疑惑がその三つ。
「ちとこれはふた知恵三知恵、大出しにしなくちゃなるまいかな」
つぶやきながら、しきりとあごをなでなで、しきりとあたりを見調べていたかと思われましたが、せつな!
「なんでえ! なんでえ! おどすにもほどがあらあ。ウッフフ、アッハハ。だから、べっぴんというやつあ、魔がさしていけねえんだ。のう、伝あにい!」
とつぜん、名人が何を発見したか、爆発するように笑いだしたので、肝をつぶしたのは伝あにいです。
「びっくりするじゃありませんか。ど、ど、どうしたんです。また何か怨霊《おんりょう》でもが出ましたかい」
「出たとも、出たとも。すんでのところ、むっつりの右門も大恥かくところだったよ。こりゃなんだぜ、人手にかかったんじゃねえ、まさに二三春自身が自分で命をちぢめたんだぜ」
「冗、冗、冗談も休みやすみおっしゃいませよ。猿《えて》の手にしたっても、てめえの背中へドスを突き刺すような器用なまねはできねえんだ。ましてや、こんなかわいいべっぴんの手が、背中のまんなかに回るほど長かったら、首もろくろっ首のはずですよ」
「ところが、ご自身でお死にあそばしたんだから、なんともしようがねえじゃねえか。まあ、そのうしろの柱に結びつけてある品物をとっくり見ろよ」
指さしたのは、二三春の死骸《しがい》のちょうどまうしろになっている柱の下のほうに、しっかり結わいつけてあるその名もなまめかしい江戸紫のしごきです。
「はあてね。七つ屋へこかしこんでも一両がところは物をいいそうな上等のちりめんだが、いってえこんなところに結わいつけて、なんのまじないですかね」
「それが手品の種よ。なんのまじないだか、種あかししてみたかったら、そこのしごきのひとねじね
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