へでもいって、もっとドスのきく目玉に打ち直してもらってきなよ」
着眼するところ、つねにかくのごとく細密鋭利、しかも相手がまたことばのとおり、懐紙一枚たりともむだにはしまいと思われるような七十あまりの、一見するに内藤家老職のご後室さまといったようなみだしなみも好もしい切り下げ髪のお上品なご隠居さまでしたから、その慧眼《けいがん》の鋭さには、何度舌を巻いても巻ききれないくらいです。いや、事実相手のご老体は、駿河守《するがのかみ》家老職のご後室さまなのでした。
「お忙しいところを、ようこそいらせられました。当屋敷の側《そば》用人を勤めおります渡辺助右衛門《わたなべすけえもん》の母めにおじゃります。さっそくじゃが、不審はあれなる品でおじゃりますゆえ、とくとお調べくださりませ」
ことばゆかしく請《しょう》じながら、いっときも待ちきれないというように、そこの床の間に飾ってある桃の節句の祝い雛《びな》を指さしたので、静かに見ながめると、なにさまちと不審なのです。あるべきはずの内裏雛がそろっていない! 矢大臣も、官女も、庭侍も五|人囃子《にんばやし》もほかの雛人形に異状はないが、肝心かなめの内裏雛
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