ぞへ身を潜めるよりしかたがあるまいと存じましたゆえ、多根の身のまわりの品から先にまずここまで運び出して、その相談をしていたところなのでござります」
「それならばもう何も申しあぐることはござりますまい。この雛はたった今、すぐにご返却なさいませな。心の去ったおしるしに。さすれば古島家のほうでも察しましょうよ。――いや、これでもうてまえどもの役目は終わりました。恋のおふたりさん。それから、いじらしいお多根さん。おしあわせでお暮らしあそばしませよ。さ! 伝あにい! 何をまごまごしているんだ。じゃまだよ! じゃまだよ! 長居はじゃまっけじゃねえか」
しかるに、その伝六が表へ出ると、
「ね……!」
「ね……!」
「どう思ってもたまらねえね」
しきりにひとりでうなずきながら、しきりとひねりつづけていたものでしたから、名人の明るい声がとびました。
「何を感心しているのかい」
「いいえね、見ましたかい」
「何をよ」
「べっぴんたちの顔ですよ。内藤小町の春菜さんもくやしいほどべっぴんでしたが、お多根っ子も気がもめるほどあでやかでしたぜ。そのうえにまた、敬之丞っていうご浪人が、きりりっとこう苦み走ってい
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