つきらあ。人形師の野郎がね――」
「眼的《がんてき》か」
「的も的も大的なんです。浅草の原丸も、呉服町の清谷も、最初の二軒はしくじったからね、心配しいしい三軒めの京屋へ洗いにいったら、あのまがい雛《びな》の着付けとおんなじ金襴を百体分ばかり、人形師の野郎が自身でもって買い出しに来たというんですよ。しかも、買うとき味なせりふをぬかしやがってね、こういうものは人まかせにすると、気に入ったのが手にへえらねえからと、さんざんひねくりまわして買ってけえったといやがったからね、能書きをぬかしたところをみるてえと、いくらか名人気質の野郎かなと思って探ってみたら――」
「桃華堂の無月だといやしねえか!」
「気味がわるいな。そうなんですよ! そうなんですよ! 四ツ谷の左門町とかにいるその桃華堂無月とかいう野郎だというんですがね。どうしてまた、そうてきぱきと、いながらにして眼《がん》がつくんですかね」
「またお株を始めやがった。むっつりの右門といわれるおれが、そのくれえの眼がつかねえでどうするんかい。いま江戸で名の知れた雛人形師のじょうずといえば、浅辰《あさたつ》に、運海に、それから桃華堂無月の三人ぐれえ
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