菜様とやらおっしゃったそのお嬢さまにも、ちょっとお会わせさせていただきましょうかな」
「は、よろしゅうおじゃります、と申しあげたいのでござりまするが、それが、じつは……」
「いかがあそばされたのでござります」
「どうしたことやら、騒ぎが起きるといっしょに、どこかへ姿が消えたように、見えなくなったのでおじゃります」
「えッ――」
名人はおもわず声を放ちました。名宝なればこそ、まず十中八、九ただの盗難であろうと言いきったばかりのときに、意外や突如として、新しい疑問と新しい不審がわき上がったからです。
「ふうむ。ちとこれはまた少しこみ入ってまいりましたな。どのようなご様子で見えなくなったのでござります」
「古島様親子がご立腹なすっているさいちゅうに、なにやら悲しそうに顔色を変えて、ふらふらと奥庭のほうへ出てまいりましたゆえ、思いつめてなんぞまちがった考えでも起こしてはと、腰元の多根《たね》にすぐさま追いかけさせましたところ、もうどこへいったか見えなくなっていたそうなのでおじゃります。それゆえ、大騒ぎいたしまして、心当たりのところへは残らず人を飛ばし、くまなく捜させましておじゃりまするが、か
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