ら申すものは、どうせきとめようにも、せきとめるすべのないものとみえまして、三度は四度と重なり、四度は五度と重なるごとに、古島様とのお約束を破ってもと、おいじらしくも思いつめたお心におなりあそばしたのでござりましょう。今こうして三人泣き合いながら、わたくしもありのままを申しあげ、お嬢さまからも事の子細みんな承りましたのでござりまするが、ことしの節句が無事に済めば、遠からずもうお輿入《こしい》れせねばなりませぬゆえ、いっそ思いきってと、あの預かり雛をお隠しあそばされたのだそうでござります。さすれば、古島様がたいせつな契り雛を粗略にしたとご立腹あそばし、したがって十二年このかたのお約束も、ご立腹のあまりご破談になることであろうし、なればひとりでに兄めにも添いとげられるとお思いあそばして、こっそりどこかへお隠しなさいましたのを、ちらりとこのわたくしが見かけたのでござります。それゆえぎょうてんいたしまして、兄は、このとおりのやせ浪人、こんな浪々の身分卑しい者とご大身のお嬢さまが、りっぱなおいいなずけにおそむきあそばしてまでも添いとげたとて、いずれは先々お身の不幸と、ご恩顧うけたご主人さまの行く末々を思う心から、二つにはまた身のほど知らぬ兄めをもたしなめましょうと存じまして、お嬢さまの目を忍び、こっそり桃華堂様のところへ駆けつけて、あのようなまがい雛をこしらえさせたのでござります、契りのしるしの男雛さえあれば、よしまがいものでござりましょうと、またお嬢さまにひそかごとがござりましょうとも、約束どおり八方無事にお輿入れもできますことでござりまするし、とすればまた兄との仲もおのずと水に消えることでありましょうと、女心のあさはかさからしたことが、けさほどのように古島様親子からひと目にまがいものじゃと見現わされまして、このような騒ぎになりましたのでござります。これがなんぞの罪科《つみとが》になりますことなら、だれかれと申しませぬ、この多根めがすべての罪を負い、どのようなおしおきでもいただきますゆえ、よしなにお取り計らいくださりませ……」
ききつつ、おのが身を省みつつ、恥ずかしさ、やましさ、腰元お多根の心づくしの美しさ、いじらしさにこらえかねたとみえて、当の春菜がうなじまでも一面に染めながら、消えも入りたいようにたもとで面をおおって、よよと泣きくずおれました。
まことに意外、意外から
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