きりと丹念に見しらべていましたが、何を理由に看破したものか、にやりと微笑すると、ことごとく伝六を驚かしていいました。
「せっかくお楽しみのようだが、このご用主はおばあさんだぜ」
「何を途方もねえことおっしゃるんですかい! だから、女ぎれえは自慢にならねえというんですよ。はばかりながら、色模様にかけちゃ、あっしのほうがちょっとばかりご無礼しているんだからね。あらあらかしこなぞと若々しい止め文句を使う年寄りのばんばあが、どこの世界にあるんですかい。論より証拠、行ってみりゃわかるんだ。いらっしゃい! いらっしゃい! すぐさまご入来願わしくとあるんだから、早いところおいでなさいましよ」
素足に雪駄《せった》、巻き羽織のしのび姿で、いななき勇む伝六を従えながら、それなるご用主の内藤家へ行きついてみると、しかるにこれがなんともふつごうなことに、名人の看破したとおりなのです。
「あッ、ようこそ。ご隠居さまがさきほどから、まだかまだかと、たいへんにお待ちかねでございますゆえ、お早くどうぞ――」
門のところから若党ふうの小者があわただしげに顔を出して、あきらかにご隠居さまといいながら、その間も待ち遠しいように、屋敷のうちの木立ちがくれになったお組屋敷の一軒へいざなっていったものでしたから、女のことにかけては大きに目の肥えているはずの伝六が、すっかりかぶとをぬいでしまいました。
「へへえね。ちっとばかりあきれたな。当節のご隠居さまは、血の道がおかれあそばしましても、ひと筆しめしまいらせそろなんて、いろっぽいお手紙をお書きなさるのかね――」
腑《ふ》におちかねるようにひねりはじめた首の前へ、名人がこれを見ろといわぬばかりで、にやりとやりながら黙ってさし出したのは、先刻のあの書面です。
「なんです? どこかにご隠居さまが書いたっていう判じ絵でもあるんですかい」
「あいかわらず手数のかかるやつだな。このご書面の紙をみろな。もみくちゃになったやつを、火のしかなんかで伸ばしたようなこじわが、たくさんついているじゃねえかよ。いろけ盛りの若い女だったら、こんなつましいまねはしねえもんだよ。お年寄りだからこそ、捨てるももったいないと、丹念にしわをのばして、巻き紙に使ったんだ。目を変えろ、目玉をな。ねずみおどしにぴかぴか二つ光らしているんじゃねえんだから、今度ついでがあったら、神田の鍛冶《かじ》町
前へ
次へ
全25ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング