いもく居どころがわかりませぬゆえ、それもついでにお捜し願おうと存じまして、あなたさまをお呼びたてしたのでおじゃります」
「容易ならぬことになりましたな。ようござります、なんとか力を傾けてお捜し申しましょう。では、お多根どのとやら申されるそのお腰元を、ここへちょっとお招きくだされませな」
「ところが、その多根もいつのまにやら、ふいっと消えてなくなったのでおじゃります」
「なんでござります! お腰元もいなくなりましたとな! ふふうむ! いよいよこれは事がむずかしくなりましたな。いなくなりましたのは、いつごろでござりました」
「手分けして春菜を捜しているさいちゅうに、多根がまたうち沈んだ様子で、同じようにふらふらと奥庭のほうへ出てまいりましたゆえ、若党にすぐさまあとを追わしましたところ、やはりもういなかったそうなのでおじゃります」
「お年はいくつぐらいでござりました」
「一つ下の十七でおじゃります」
「気だては……?」
「やさしゅうて、すなおで、かわゆらしゅうて、そのうえ主人思いの、なにひとつ非の打ちどころもない子でおじゃりますゆえ、春菜もいっそほんとうの妹にしたいと、口ぐせに申していたくらいでおじゃりました」
名人は聞き終わるとともに、じっと瞑目《めいもく》しながらうち考えたままでした。単純な事件と思われたのが俄然《がぜん》ここにいたって多岐《たき》多様、あとからあとからと予想外な新事実が降ってわいたからです。春菜の行くえ知れずになったのも不審なら、あいついで腰元お多根の姿が消えたのもすこぶる不審でした。
ふたりはしめし合わせて姿を消したのであるか? それとも、別々の理由からいなくなったか? あるいはだれか背後に糸を引く者でもあったか? もしくは、ふたりともさらわれていったか?
いずれにしても、もちろん、雛そのものにふたりのいなくなった原因があるに相違ないのです。しかも、原因のその雛がまた尋常一様の雛人形ではないのだ。因縁の雛、恋の思い雛、行く末かけてと七つの年から誓い祭り飾りつづけた契りのしるしの片雛であるうえに、あまつさえすり替えられた真物は、天下三宝の一つと名を取ったゆゆしき名品なのです――。これでは考えざるをえない。考えまいとしても考え込まざるをえない。どこから知恵のふたをあけて、この容易ならざるなぞを解いていったらいいか? 黙々沈々、石のごとく冷静に、お
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