くと、新しい白木の位牌《いはい》が二枚あるのだ。――一枚は新帰元泰山大道|居士《こじ》という戒名。他は同じく新帰元円明貞鏡大姉とあるのです。
「フフン。居士号大姉号をつけてあるところは相当金持ちだな」
「え……?」
「てつだってくれなくともいいよ。どうせ、おれはふろ屋の番台だからな。おめえはひとりでかんかんおこってりゃいいじゃねえかよ」
「ちぇッ」
 裏を返してみるとよろしくない。新帰元とあるからには、いずれ最近に物故した新仏だろうとは思われましたが、このころもこのころ、仏はふたりともに、寛永十六年十二月十二日没、すなわち去年の師走《しわす》の同じ日にそろってなくなっているのです。そのうえ、二つの位牌の前には数珠《じゅず》があるのだ。しかも水晶。仏壇ですから数珠があるのに不思議はないが、男の子どもが三人と気違いと、よそから飛び込んできた疑問の女と、人物は五人しか現われないのに、祥月命日が同月同日の新しい位牌が二つあって、その前にけっこうな水晶の数珠があるとは、余人ならいざ知らず、名人の目をもってしてははなはだ大問題です。
「そろそろ少し――」
「え? なんです? なんです? 何か眼《がん》がつきかかったんですかい」
「いらぬお世話だよ」
「ちぇッ、なにもすねなくたって、いいじゃござんせんか! あっしのがみがみいうのは、今に始まったことじゃねえんだ。鳴るがしょうべえだと思や、腹たてるところはねえでやしょう。意地のわるいことをおっしゃらねえで、聞かしておくんなせえな」
「いいや、よしましょうよ。わたしはどうせふろ屋の番台だからね、アハハハ。いいこころもちだね」
 にやにやしながら、さらにあちらをこちらをと捜していましたが、そのときふとまた目についたのは、そこの茶の間の茶だんすの上にあった子どものおもちゃ箱です。あけてみると、まず第一に現われたのは首振り人形。それからやじろべえ。つづいてめんこ、でんでん太鼓にピイヒョロヒョロの笙《しょう》の笛。その下からただのおもちゃにしては少しおかしい変な玉が三つころころと飛び出しました。赤に、白に、黄――。大きさはすももくらい。
「よッ。江戸も広いが、こんなおもちゃは知らないぞ。まさに、これは玉ころがしに使う玉だな」
「え……? なんです? なんです? 玉ころがしとは、浅草のあの玉ころがしですかい」
「いらぬお世話だよ」
「ちぇッ、な
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