またがって、小姓の采女一騎をうしろに従えながら、お微行《しのび》で三丁の駕籠のあとを追いました。
 駆けつけた時は九ツ下がり。
 目ざした隠し屯所は、一見ただの町家のごとくに見られましたが、しかし一歩その中へはいれば設備はいたれりつくせりで、土蔵と見せかけて、その実|不審牢《ふしんろう》につくられたその土蔵の中に、厳重な警固と見張りをうけながら、問題の生駒家浪人権藤四郎五郎左衛門は、なるほど中間ふうに化けながら、不敵にもぐうぐうと高いびきかいて眠りをむさぼっているさいちゅうでした。
「ふうむ、あやつか。思いのほかの豪胆者とみゆるな」
 唯一の証拠にと、携え持ってきたあの千柿鍔の一刀をこわきにしながら、名人はゆうぜんとはいっていくと、
「起きろ!」
 パッとそのまくらをけって、ずばりといいました。
「長え名のお客仁! おひざもとで味なまねしやがったなッ」
「えッ――」
「驚くにゃまだはええや、讃岐《さぬき》でもちったァ名を聞いたろう! おれが、むっつりとあだ名の右門だッ。名を名のりゃ、もういうことはあるまい! ここにおれが持っているこのなげえ一刀の千柿鍔と、おぬしが所持のその小わきざしの
前へ 次へ
全43ページ中39ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング