評判が客を呼んで、すでにもうそのとき七分の入りでした。

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 さるでもしばいとならば、大根、下回り、中看板、名題と、いろいろ階級があるとみえて、最初は下回り連のありふれた曲芸。その次が鳴り物づくしに、首引き綱引き、第三にすえたのが呼び物の一つである盛遠袈裟《もりとおけさ》切りの大しばいでした。
 お定まりどおり、遠藤《えんどう》武者の盛遠が袈裟御前に懸想するところから始まって、では今宵《こよい》九ツに館《やかた》へ忍んできて夫の渡辺渡《わたなべわたる》を討ちとってくれたら、ということになり、返しとなって、盛遠が恋がたきの渡を殺す、ところがよくよく見ると、刺した相手は渡ならで、当の袈裟御前であったところから愁嘆場になって幕となるという大物でしたが、黒子の介添え人こそあれ遠藤武者も、袈裟御前も、渡辺渡も、役者はみなほんもののさるで、ことごとくそれが下座の鼓一つできまりきまりを踊りぬき、なかんずく盛遠になった雄ざるの太夫《たゆう》は、一段と器用なできばえのうえに渡と信じて思い人の袈裟御前を突き刺すあたりは真に迫っていたものでしたから、もとより満場は割れるような大喝采《だいかっさ
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