い》――。
「畜生とは思えぬくらいじゃな」
すっかり名人も感に入って、久しぶりの目保養気保養にうっとりなりながら、あごをなでていると――、
「どきねえ! どきねえ! じゃまじゃねえかッ。[#底本には、1字あき]どきねえってたらどきねえよッ」
ガラッ八のぐあい、かしましいぐあい、どうも聞いたような声なのです。
「さてはお越しあそばさったな」
遠慮のないぐあいが、てっきりあいきょう者だろうと思われたので、あごをなでなでふり返ってみると、果然わが親愛なる伝六なのでした。
しかるに、親愛なるその伝六が、来るそうそうから少しよろしくないことをいったのです。
「いくら非番だからって、あきれただんなじゃござんせんか! こんなところでのうのうとやにさがって、しばい見物とはなんのざまです! おしばい見とはなんのざまです!」
おそくなったのをわびでもするかと思いのほかに、言いだし本人のそのご本尊が、誘いの水を向けたことなぞは忘れ顔に、あたりかまわずがみがみとやりだしたものでしたから、名人の顔色がいささか変わりました。
「人中も人前もわきまえのねえやつだな。おまえがここへ来ようと水を向けた本人じゃ
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