て、二、三度夜の内座敷を勤めているうちに、どうしても入り婿となれとこんなにせがみましたんで、てまえがご家人の株を買った体につくろい、井上金八と名のってこの屋のあるじになったんでございます。なれども、魔がさしたとでも申しますか、ちょうどてまえが入り婿になりましたのといっしょに、こちらのこのお葉めが女中となって参り、ついしたことから仏となったこの者の目をかすめて、ねんごろになったのが身のあやまち――一方は恩こそあっても年は上だし、それにぶ器量、お葉のやつはまた因果と水のでばなの年ごろでござんしたので、だんだんと目にあまるような不義がつづくうちに、けんかはおきる、内はもめる、毎夜のように癪《しゃく》はおこす――」
「だから? いっそ毒くらわばさらまでと、殺す気になったのかい」
「は……、殺して、まんまとご家人のこの株を奪いとり、お葉を跡に直してと思ったんですが、いかにむしの好かぬ女であっても、一年あまりなめるほどもかわいがってくれた相手でございますゆえ、自分が手を下すのもむごたらしいし、といってまごまごすれば追い出されそうだし、ところへたまたま耳に入れたのが両国のあの袈裟切り太夫のうわさでご
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