うか、はええところ飛んでいって松平のお屋敷のほうを洗ってこいッ」
「…………」
「手数のかかる兄いだな。首をひねって何をぼんやりしているんだッ。いろはから出直して、もう一度とっくりと考え直してみなよ! 井上の金八|館《やかた》は、まるで化け物屋敷みてえじゃねえか! 貧乏長屋かと思や中は存外と金満家なんだ。だのに、あれほどの騒ぎがあって見舞い客がひとりもいねえんだ。しかも、あの夫婦をみろいッ。きのどくなほどぶ細工な年増《としま》女のご亭主にしちゃ、金八|奴《やっこ》、気味の悪いほど若すぎるじゃねえかッ。おまけに、おかしな鼓の隠し芸があるっていうんで、証拠呼ばわりをして突きつけたあの祝儀袋に、きっと何かふらちな細工がしてあるにちげえねえから、とっとと洗いにいってきな」
「なるほどね。いろはだけじゃわからねえが、ちりぬるをわかまで考えてみりゃ、いかさまちっとくせえや! うなぎを食いはぐれてあぶら切れがしていやがったんで、野郎にたぶらかされたんだ。よくもだましゃがったな! どうするか覚えてろッ。地獄でまた会いますぜ!」
「まてッ、まてッ」
「えッ?」
「きょうは特別だ。急がなくちゃならんから、
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