、六町とない目と鼻の新光院通りでした。
けれども、本人は大得意。
「ざまみろい! 辰ッ。このとおり、おいらのやることあ細けえんだッ。――ここですよ! ここですよ! この家がそうですよ」
てがら顔に案内してはいろうとした問題のそのひと構えを、あごをなでなでちらりと見ながめていましたが、ぴたりともう右門流でした。
「ほほう。ご家人だな」
「え?」
「ここのおやじはご家人だなといってるんだよ」
「やりきれねえな。おいらが汗水たらして洗ったネタを、だんなときちゃ、ただのひとにらみで当てるんだからな。どうしてまたそんなことがわかるんですかい」
「またお株を始めやがった。この一郭は大御番組のお直参がいただいている組屋敷町じゃねえか。直参なら旗本かご家人のどっちかだが、この貧乏ったらしい造りをみろい。旗本にこんな安構えはねえよ」
まず一つ伝六を驚かしておくと、八丁堀の名物の巻き羽織のままで、案内も請わずさっさと通りました。しかるに、構えの中へ通ってみると、少しくいぶかしいことには、表付きの貧弱なるにひきかえ、家うちの器具調度なぞのぐあいが、ただのご家人にしてはいたくぜいたくなのです。
「はてな
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