「あげるよ! あげるよ! 催促せんでもみこしをあげるが、でもなんだからな、兄貴の話ゃ――」
「何がなんでえ! 話がわかったら、気どらなくたっていいじゃねえか! やきもきしているんだから、活発に立ちなよ!」
「と思うんだが、兄貴の話ゃ、大きに芸が細けえようなことをいって、ちっとも細かくねえんだからな。女の殺されているのはいいとして、どこで本人が殺されているのか、肝心の方角をいわねえんで、だんなだっても急ぎようがねえんだよ」
「つべこべと揚げ足取るなッ。何もかもおぜんだてができていればこそ、せきたてるんだッ。細けえか、細かくねえか、表へ出てみりゃちゃんとわからあ! さ! だんなも立ったり! 立ったり!」
 手をひっぱるようにしながら表へ連れ出すと、いかさま芸が細かいと自慢したのも道理でした。珍しく気のきいた大働きで、ちゃんともう用意しておいた早駕籠《はやかご》に名人を押し込めながら、鼻高々と案内していったまではおてがらでしたが、やっぱりこの辺が伝六流です。早駕籠までも雇っていく以上は、よほど遠方だろうと思われたのに、なんとも大笑いなことには、連れていったその先は、両国|河岸《がし》から五
前へ 次へ
全49ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング