ましたよ」
「えッ。じゃ、あの、――そうでございますか! 向きます! 向きます! 疑いが晴れたとなりゃ向きますが、いかにもこのとおり目あきのあんまでごぜえます」
「やっぱりな。ぱっちりとりっぱなやつが二つくっついていらあ。それならそうと早く顔を見せりゃいいのに、頭をかかえて震えてばかりいなすったんで、すっかりあぶら汗をかかされましたよ。でもまあ、目あきであって大助かりだが、ときにおまえさんは妙なお道楽をお持ちだね」
「へえい、あいすみませぬ。あんまふぜいがとお笑いでごぜえましょうが、こればっかりゃ病みついたが因果とみえて、女房一匹飼う金までもおしみながら、刀を集めているのでごぜえます」
「そうだろう、おめえさんが顔をかくしていたからわるいんだ。どうもこいつが変だと思ってね、すっかり頭を絞ったんだが、目の不自由な者が刀を集めてみてもしようがあるまいし、といってこれだけ飾ってあるところを見りゃ、たしかに刀道楽にちげえねえんだがと、いろいろ考えた末に、ようようといましがた目あきだなとにらみがついたんですよ。そこでだが、――きさま何か隠しているなッ」
「えッ」
「といっておどしてみたところで始まりますまいから、今まで手間をとらせたその償いに、ゆうべの一条をすっぱりと白状したらどうですかい」
「…………」
「黙っていりゃ、せっかく晴れかかった疑いがまた曇りますぜ」
「でも……」
「心配ご無用。見りゃ刀のどの小柄《こづか》にも血の曇りはねえし、察するところ、今まで震えていたなあ、ゆうべそのぱっちりとあいている目で、何か変なことを見たんで、かかり合いになっちゃと、心配してのことにちげえねえと思うが、的ははずれましたかね」
「恐れ入りました。そのとおりでごぜえます。じつあ――」
「見なすったか!」
「見もし、出会いもしたんで、疑いがかかりましてはと、今まで生きた心持ちもなかったんでございますが、ゆうべのかれこれ九ツ近いころでした。井上のおだんなのところから、お葉さんがお使いにみえましてね――」
「葉というは女中か!」
「へえい、ぽちゃぽちゃっとしたべっぴんなんで、年は若いし、ちっと気にかかっているんですが、そのお葉さんがお使いに来て、奥さまからのおことづてだが、おだんなが夜勤にお出かけなすって、たいくつしているから話しに来いと、こういう口上でございましたんで、夜中近いのに変だなと存
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