出るか、へびが出るかわからねえが、ではとって押えろッ」
心得たとばかりに、伝六、辰の両名は、横っとびでした。
3
しかるに、道向こうのそれなる仙市宅へ駆けつけていってみると、これが奇態でした。いや、いよいよ不審でした。ぴったりと雨戸が締まっているのです。早くも風をくらって逐電したのか、まだ八ツになるかならぬかの昼日中であるのに、どこもかしこもぴったりと戸がおろされていたものでしたから、伝六の鳴ったのは当然――。
「ちくしょうめッ。手数のかかるまねしやがるじゃねえか! だからいわねえこっちゃねえんだッ。ろくでもねえ猿《えて》しばいなんぞにいって、のうのうとやにさがっているから、こういうことになるんですよ! どこへうせやがったか、またむだな詮議《せんぎ》しなくちゃならねえじゃござんせんか!」
おこり上戸のおこり太鼓を、柳に風ときき流しながら、いとものどかにあごをなでなで、しきりと家のまわりをのそのそやっていた様子でしたが、そこの、ちょうどお勝手口のところまでいったとき、
「ふふん――」
とつぜん名人が、ふふんと吐き出すようにいうと、にやりとやりました。そのまたふふんなるふふんが、なんともかともいえぬふふんでしたから、鳴り屋の千鳴り太鼓がさらに鳴ったのはこれまた当然でした。
「ちぇッ、何がおかしいんです! 人がせっかく腹をたてているのに、何がおかしいんですかよ」
「控えろッ」
「えッ?」
「そうまあガンガン安鳴りさせずと、その足もとをよくみろよ」
いわれて足もとの流し口をなにげなく見ると――、こはそもいかに! 勝手口からちょろちょろと流れ出ている水から、ぽあん、ぽあんと湯気がたっているのです。
「よッ、さては野郎め、家の中に隠れているんだろうかね」
「あたりめえだッ。湯気水の中に、出がらしの茶の葉がプカプカと浮いてるじゃねえか。やっこさんゆうゆうと茶をいれ替えて、とぐろを巻いているぜ。このあんばいじゃ、一筋なわで行きそうもねえやつのようだから、気をつけねえとやられるぞ!」
「なにをッ。きょうの伝六様は品がお違いあそばすんだッ。――ざまあみろッ」
ドンと、もろに体当てを食わして、雨戸をけとばすと、いかさまできが違うのではないかと思われるほどの勇敢さで、七くぐり、八返りの仕掛け造りではないかともあやぶまれる暗い家の内を目ざしつつ、伝六が先頭、つづいて
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