んで、差し出がましいことでしたが、ゆうべたしかにお徒歩供をなすったという生きた証拠はござんせんかと、さっき下検分に来たとき念を押してみたら、井上のだんなが、これこそその何よりな証拠だとおっしゃって、あっしにくだすったのが、つまり、この酒肴料うんぬんの包み紙なんですよ。中身はどのくれえおありなすったか、はしたねえことだから、そいつまでは聞きませんが、いずれにしてもこの包み紙は、ゆうべのお徒歩供の特別お手当としてくださった金一封のぬけがらにちげえねえんだから、とするてえと、井上のだんながおるすなさったことに疑う節もねえんだし、ほかにまたこれといって怪しいところもねえんだから、こいつ変だと――」
「ふふうむ。なるほどのう」
「ちぇッ、変なところで感心しっこなしにしましょうぜ。話やこれからが聞きどころ、眼のつけどころなんだからね。そこで、何かネタになるような怪しいことはねえかと、この伝六様がけんめいと捜してみるてえと――」
「あったか!」
「だから、鼻がたけえというんですよ。こういうもっけもねえ品が見つかったんだから、これこそは粗略にできねえと、たいせつに隠しておいたんですがね。どんなもんですかね」
奥歯に物のはさまったようなことをいいながら立ち上がって、そこの縁先のすみから、これまたうやうやしくささげ持ちながら携え帰ったのは、一本の丸樫杖《まるがしづえ》。――しかも、そのちょうど握り太のところには、ぺっとりと生血の手形がついているのです。
「いかにものう! どこで見つけ出した!」
「どこもここもねえんですよ。ついそこの袖垣《そでがき》のところに落っこちていたんでね。こいつを見のがしたら、伝六様の値うちがさがるんだッ、――というわけで、うやうやしくしまっておいたんですが、さ! これから先ゃだんなのおはこ物だッ。へんてこなこの丸樫杖が何者の持っていた品だか、それさえ眼がつきゃ、下手人は文句なしにそやつと決まってるんだから、はええところ勇ましく、ずばずばッとホシをさしておくんなせえよ!」
まことにしかり! かくも疑わしき遺留品があったとするなら、それなる血染めのいぶかしき丸樫杖の持ち主に、下手人としての第一の疑いがかかるのは論のないところでしたので、名人もまたそう思ったらしく、手に取りあげてもてあそぶように見ながめていましたが、ずばりと、真に勇ましいくらいの右門流でした。
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