天女がお降りあそばしたんですよ!」
 ひとりで心得、ひとりでせかせかとはしゃぎながら座敷を取りかたづけると、やがて請《しょう》じあげてきた者は、まこと天女ではないかと思われる一個の容易ならぬ美人でした。年のころはどうふけて踏んでもまず二十一、二。あだめいた根下がりいちょうに、青々とした落としまゆの、ほんのりさした口紅に、におやかな色香の盛りを見せた容易ならぬ美形でしたから、いささか右門も胸にこたえたらしい面持ちで、いぶかりながら目をみはっていると、しかるにそれなる美形が、やにわになれなれしくいいました。
「しばらく……お久しゅうござんした」
「…………」
「ま! わたしですよ。お見忘れでござんすか。わたしですよ」
「…………?」
「去年の夏、お慈悲をかけていただいた、くし巻きのお由ですよ」
「えッ」
 右門のおどろいたのも道理。ご記憶のよいかたがたは、まだお忘れでないことと存じますが、第六番てがらの孝女お静の事件に、浅草でその現場を押え、悔悛《かいしゅん》の情じゅうぶんと見破ったところから、お手当にすべきところを特に見のがして慈悲をたれてやった掏摸《すり》の名手のあのくし巻きお由が、
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