らば、久しぶりに若返りましょうよ」
ようやくそれと知ったとみえて、投げ節笠に面をかくしながら、ばち音涼しく両人のかたわらへ近づくと、
「おむつまじゅうござんすね。お引き出物に、ひとつ歌わせておくんなさいな」
いいつつすれ違ったせつな! さすがはいにしえ、江戸八百八町に鳴らしたくし巻きお由です。あざやかに黒川の紙入れを抜き取りながら、引き返してまいりましたので、ただちに中身を見改めました。
と――果然現われ出たものは、北村大学の紛失したはずの印鑑でした。しかも、それといっしょに室井屋と文字のよめる質屋札が出てまいりましたものでしたから、ただもうあとは疾風迅雷《しっぷうじんらい》の右門流――
「用人黒川! 神妙にせい!」
「えッ!」
「さっきの右門と今の右門たあ、同じ右門でも味がお違い申すんだッ。じたばたせずと、おなわうけい!」
「そうか! ゆだんさせて、つけてきやがったのか! もうこうなりゃ破れかぶれだッ」
こざかしいことにも、なまくら刀を引き抜いて切りかかったものでしたから、まことにどうもはや、胸のすくことでした。
「たわけ者ッ、菜っ葉包丁みたいなものを、おもちゃにすんねえ!
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