ゃるんですかい! いくらだんなが碁は初段にちけえお腕めえだって、音を聞いただけで眼の狂いがわかってたまりますかい! 碁打ちのなかにだって、石川|五右衛門《ごえもん》の生まれ変わりがいねえともかぎらねえんだ。十兵衛の野郎、どう考えたってくせえんだから、しりごみせずと踏ん込みましょうよ!」
「わかりのにぶいやつだな。あの石の運びは、まさしく習いたてのザル碁の音だ。碁将棋を覚えりゃ、親の死にめにも会われねえというくれえのもんじゃねえか。野郎め、そわそわしながら出てきたな、近ごろに覚えやがったんで、それがおもしろくてならねえからのことだよ。だいいち、身にやましいことがありゃ、ああゆうゆう閑々と碁石なんぞいじくっていられるものかい。とんだ大笑いさ」
「ちぇッ、伝六太鼓鳴りそこないましたか。じゃ、ちっとまたあわてなくちゃなりますまいが、これからいったい、どうなさるんですかい」
「ところが、物は当たってみるもんじゃねえか。碁石の音をきいて、とんだ忘れ物をいま思い出したよ。さっき北村の大学先生から、だいじなことで聞き忘れていたことが一つあるはずだが、おめえは思い出さねえのかい」
「…………※[#疑問符
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