――同時のように主従三人の目を射たものは、離れ座敷の障子に、ぽっかりと大きく映ってみえる四人の入道頭の黒い影です。しかも、その四つのうちに今はいっていった番頭十兵衛の影もたしかに交じっているのが見えましたものでしたから、そもなんの謀議かと、主従等しく目をみはっているとき、まさしく耳を打ったものは、ピシリ、ピシリ、という碁石の音でした。
「よッ、ちくしょうめ、やけにおちついていやがるじゃござんせんか! 碁なんぞ打ちやがって、野郎め、見かけ以上の大悪党かもしれませんぜ。辰ッ、相手は四人だから、投げなわの用意しっかりしておけよ。さ! だんな! 踏ん込みましょうよ!」
 いったのを、
「あわてるな! 待てッ」
 制しながら、五石八石と打つ石の音をじっと聞き入っていた様子でしたが、まことに不意でした。とつぜん、名人がカンカラと途方もない大声で笑いだすと、あいきょう者をおどろかしていいました。
「バカバカしいや。これだから、伝六太鼓はあてにならんよ。おめえがあんまり陰にこもった鳴り方させたんで、ついうっかりとおれも調子につり込まれてしまったが、とんでもねえ眼ちげえだぞ」
「何を理屈もねえことおっし
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