きました。かりにもお将軍家お秘蔵と名のつく品なんですから、お箱の結構壮麗はいうまでもないことなので、総蒔絵《そうまきえ》金泥《きんでい》散らしの二重箱には、みごとな絹ふさがふっさりとかけられて、いかさま北村大学のいったとおり、それには三カ所厳重な封印を施したあとがありました。
「これなる封印は、先ほど立ち会ったとき破ったのじゃな」
「さようでござります」
「大学殿のおことばじゃと、中身を改めるまでは、封印に少しも異状がなかったとのことじゃが、たしかにそのとおりじゃったのか」
「なんの異状もござりませんだからこそ、安心してお改めを願うたのでござります」
「預かったのはいつじゃった」
「つい二十日《はつか》ほどまえでござります」
「その節はじゅうぶん中身を改めて、預かったのじゃな」
「ご念までもござりませぬ」
「どういう品か、存じて預かりおったか」
「ご名家の北村様がお持参の品でござりますゆえ、いずれは名ある品と存じまして、べつに詳しいことをお尋ねもしませいで預かりましてござります」
「では、これなる倉じゃが、ここへいつもなんぴとが出はいりいたすか。小僧どもが出入りするか」
「いいえ。この
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