てるんだから、いつもの伝六太鼓とは音が違うんだッ。お駕籠《かご》だろうと思って、もうちゃんと用意してまいりましたぜ」
「人見知りをしないやつだな。お人さまがいらっしゃるのに、そうガンガン鳴るな。雇ってきたのはいいが、何丁じゃ」
「ちぇッ、決まってるじゃござんせんか! だんなの分が一丁ですよ!」
「たまにできがいいと思や、そのとおりまがぬけてらあ。もう一丁つれてきな」
「えッ?」
「急いでいるんだ。たたらを踏んでいるまに、早くいってきなよ」
 二丁用意させると、いつもながらに、そつのない右門流でした。
「てまえの志でござります。ご高家のお殿さまが、八丁堀《はっちょうぼり》からこっそり帰ったと人目にかかりましては世間へのはばかりもござりましょうゆえ、ご遠慮なくお召しくださりませ。ついで、お由さん、ご婦人がおひろいでも気がききませんから、ご老体をお送りかたがた、湯島のお屋敷で待っていておくんなさいな。一、二|刻《とき》たちましたら、なんとか目鼻をつけて、お知らせに参りましょうからな」
 北村大学とお由のふたりを駕籠で立たせておくと、自身は珍しやおひろいで、例のほろ苦い江戸まえの男ぶりを覆面ず
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