、世にいれられぬ名家の貧困からなる過失をあわれむもののように、きらきらとその目に玉なす露すらも宿しながら、いとたのもしげにいいました。
「ご心痛のほど、よくわかりました。事実はどうありましょうと、上さまご秘蔵のご名宝が紛失いたしたとあっては捨ておかれませぬゆえ、いかにもお力となりましょう」
「そうでござるか! かたじけない! かたじけない! このとおりじゃ! このとおりじゃ!」
「もったいない、お手をおあげくださりませ。そうと聞いてはあすの朝までにまにあわせねばなりませぬゆえ、すぐにも詮議《せんぎ》にかかりましょうが、それなるからのお箱は、質屋に置いたままでござりましょうな」
「中身のないもの預けぬと申して、土蔵の中に置いたままでござるわ」
「質屋はどこでござります」
「湯島天神下の三《み》ツ藤《ふじ》というのでござるわ」
「お屋敷もご近所でござりまするか」
「筋向かいじゃ」
「そうでござりまするか。――では、伝六ッ」
「…………」
「伝六はどこへ参った!」
 姿が見えないので、いぶかっているとき、およそあいきょう者です。
「どうでえ! どうでえ! この鳴り方をみろ! きょうは張りきっ
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