か」
「うるせえな。おれがついているじゃねえか!」
いいもいったり、きりもきったり、名人得意の啖呵《たんか》をすっかり口まねしながら、そこにぽっかりとまた浮かび上がって、黒々とさかしまに大きな腹を見せたままでいる屋形船をじっと見透かしていましたが、と――たまには伝六の目もさえるときがあるとみえて、おどろいたもののごとくに、言い叫びました。
「なるほど、こりゃまごまごしていられねえや! 船の底にくりぬいたでけえ穴があるぞッ。ちくしょうめ、ふざけたまねをやりやがって、どいつか沈めやがったなッ。おいこら、船頭! 早く岸へ帰せッ」
飛び移るや同時でしりからげになると、事重大とばかりに、人波をけちらしながらいちもくさんでした。
2
だから、当然八丁堀をでも目ざして行くだろうと思われたのに、駆け向かった先はいささか意外! 土手に沿って河岸《かし》を下へ小一町|韋駄天《いだてん》をつづけていましたが、お舟宿|垂水《たるみ》――と大きく掛けあんどんにしるされた一軒の二階めざしながら、矢玉のように駆け込みました。
いっしょにそのものものしい足音を聞きつけて、広々と明け放たれた二階座
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