ん》としたのはいうまでもないことですが、しかし、名人右門は期するところのあるもののごとく、居合わした店の者に、突如ずばりときき尋ねました。
「九郎兵衛は家をあけているはずだが、いつからるすをしているかッ」
「いいえ、いるんですよ、いるんですよ。ご主人ならば、家なんぞあけやしませんよ」
「なにッ、いるとな! 奥か、二階か!」
「三日まえから裏の土蔵にたてこもって、何をしていらっしゃいますのか、一歩も外へ顔を見せないんですよ」
狂ったためしのない慧眼《けいがん》が、今度ばかりは意想外といいたげな面持ちをつづけていましたが、かくと知らばまた右門流でした。
「名のればきりきり舞いをするだろうから、手数をかけずに案内せい!」
一刻も猶予ならぬもののようにおどり上がると、三日まえからたてこもっているという聞き捨てがたき土蔵のかぎをこじあけさせながら、ちゅうちょなく押し入りました。
と同時に、目を射たその妖々たる光景は、なんといういぶかしさでありましたろう! なんたる意外でありましたろう! じつに意想外のうちの意想外な光景でした。土蔵の中に設けられた祭壇の上には、無事でいまいと覚悟された式部小
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