ること林のごとく、明知の尽きざること神泉の泉のごとき無双の捕物名人も、はたと当惑したもののごとく、十八番のあごの先にも手が回らないほどに、じっと沈吟したままでした。また、これは名人とても沈吟するのが当然でした。いかなる目的のもとに、小町娘ばかりをねらったものか、かいもくその推定がつかないからです。しかも、その下手人なる相手の女行者は、頭を丸めたへび使いのしたたるばかりな比丘尼小町であるというにいたっては、ただ妖々怪々としてそのなぞが色濃く深まるばかりだったからでした。わけても、その手口に白へびを使用したのと、河童権をそそのかして非常手段を用いたのとの全然相異なった二法があるにおいては、さらに疑問となぞを深めるばかりでした。
 だのに、伝六というやつはおよそ捕捉《ほそく》しがたい岡《おか》っ引《ぴ》きです。ひょいと気がついてみると、どこへ消えてなくなったものか、影も形も見えなかったものでしたから、場合も場合、やさきもやさき、名人の鋭いことばが飛んでいきました。
「辰ッ」
「えッ」
「兄貴ゃどこへもぐったッ」
「それがどうもおかしいんですよ。目色を変えながらふいッと今のさっき表のほうへ飛び出したんでね。だいじょうぶだ、へびはいねえよっていってやりましたら、おれさまともあろうものが、こまっけえやつの下風についてたまるけえと、こんなことをガミガミ言いのこしまして、どこかへずらかっちまいましたんですよ」
 いっているところへ、どうもやることなすことが伝六流でした。
「ちくしょうッ、ざまあみろい! 日ごろはどじの血のめぐりがわりいのと、いっぺんだっておほめにあずかったこたあねえが、きょうばかりは伝六様のできが違うんだッ。ね、だんな、だんな! このとおり、おてがらあげてきたんだから、頭をなでておくんなせえよ!」
「それどころじゃねえや! 三人の小町が生きているかも死んでいるかもわからねえ早急《さっきゅう》の場合じゃねえかッ。のそのそと、どこをほつき歩いていたんだッ」
「ちぇッ、犬っころじゃあるめえし、のそのそほつき歩いているはねえでがしょう! あっしだっても、だんなにゃ一の子分です! 辰みていな豆公卿にお株とられてたまりますかい! たまさか気イきかして駕籠のしたくをしたぐれえで、小粒のさんしょうにヒリリとやられたもねえもんじゃござんせんか! 大張りの伝六太鼓だって、たたきようによ
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