に初夏の情景を添えていたものでしたから、そこには伊豆守様をはじめ、お歴々がお控えなさっているというのに、場所がらもわきまえず、たちまちお株を始めました。
「ちぇッ。なんともかともたまらねえ景色じゃござんせんか。死んだおふくろに、いっぺんこのながめを見せてやりたかったね。目と鼻のおひざもとに住んでいながら、おやじめがごうつくばりで、ただの一度も遠出をさせなかったんで、おっちぬまでいっぺん海を見て死にてえと口ぐせにいってましたっけが、今度のお盆にゃ位牌《いはい》を抱いてきて、しみじみ拝ましてやるかね」
「バカッ」
「えッ?」
「おめでたいお出迎えに来ているというのに、死ぬの、位牌のと、不吉なことを口にするな」
「そうですか。じゃ、おめでたいことを申しますが、ねえ、だんな、あそこの茶店の前の目ざるに入れてある房州がにゃ、とてもうまそうじゃござんせんか。ご用が済んだら十ばかりあがなってけえって、晩のお惣菜《そうざい》にかに酢でもこしれえますかね」
「よくよくしゃべりてえやつだな。松平のお殿さまに聞こえるじゃねえか。うるせえから、あごをはずして、ふところの中へでもしまっちまえッ」
 しかられてい
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