か、およそ面目なさそうでしたから、名人がややいぶかって、きき尋ねました。
「どうしたい。がら相当でもなかったのかい」
「へえい……」
「ただへえいだけじゃわからぬよ、向こうが強すぎたのかい。それとも、おまえたちが弱すぎたのか」
「ところが、どうもそいつが、からっきしどっちだかわからねえんでね。今も道々辰とふたりで、首をひねりひねり来たんですよ」
「あきれ返ったやつらだな。じゃ、ご家人でなかったのかい」
「いいえ、それがいかにも変なんだから、まあ話をお聞きなせえよ。行ってみると、ひと足ちげえに、ご家人の野郎め千両ゆすり取りやがって、今ゆうゆうとあの駕籠で出かけたばかりだからといったんでね。それっとばかりに、辰とふたりしながら追っかけて、手もなく駕籠を押えたまではいいんだが、それからあとが、いかにもおかしいじゃござんせんか。駿河屋の店先から乗ったときにゃ、正真正銘のご家人だったというのに、中を改めてみるてえと、いつの間に人間をすり替えりゃがったか、似てもつかねえ按摩《あんま》めが澄まして乗り込んでいるんですよ」
「ほほう。なるほど、ちっと変だな。それからどうしたい」
「でもね、いっしょに追っかけていった番頭がいうにゃ、しかと乗って出た駕籠にちげえねえというんでね、按摩の野郎を締め上げようとするてえと、こいつが偉い啖呵《たんか》をきりゃがったんですよ。ご禁裏さまから位をいただいた鈴原|※[#「てへん+僉」、第3水準1−84−94]校《けんぎょう》じゃ。不浄役人ふぜいに調べをうける覚えはない、下がれッとぬかしやがったんでね。くやしかったが、位のてまえ、そのまま引き揚げたんですよ」
「なかなかぬかすな。頭は坊主か。それとも、何かかむっていたかい」
「※[#「てへん+僉」、第3水準1−84−94]校ずきんって申しますか、ねずみちりめんの、袋をさかさまにしたようなやつを、すっぽりかむっていましたよ」
「かわえそうに、みんごとお兄いさまたち、やられたな」
「じゃ、やっぱり化けていやがったんでしょうかね」
「あたりめえだ。ずきんの下でご家人まげが笑っていたことだろうよ。たぶん、針の道具箱もあったろうがな」
「ええ、ごぜえましたよ、ごぜえましたよ。なんだか知らねえが、特別でけえやつが、ひざのところに寄せつけてありましたぜ」
「しようのねえやつらだな。その道具箱の中に、千両はいっているん
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