兄貴、あかりだよ、あかりだよ!」
 なにものか捕獲でもしたとみえて、けたたましく言い叫びましたので、伝六が大急ぎに龕燈《がんどう》をとってきてさしつけてみると、こはそもいかに――さすがの名人右門も、おもわずぎょッとなりました。実際なんとしたものでありましたろう! 子犬ほどもあろうと思われるまっくろな黒ねこが、女の首を、いや、首ではない、女の髪の毛を、それも島田に結ったままの髪の毛を、あんぐりと、その口にくわえながら、牙《きば》をむかんばかりのものすごい形相で、らんらんと両眼を光らしていたからです。時刻が時刻のところへ、物がまた物でしたから、右門もぞくりとあわつぶだてながら、じっとややしばし見守っていましたが、しかし、そういう間にあっても、やはり、名人は名人でした。早くも看破するところがあったとみえて、ずばりといいました。
「人形の首からはぎとった毛だな!」
「ええ、そうですよ、そうですよ。このくらやみでしたから、兄貴の目じゃわからねえのがあたりめえですが、今さっきそこまで帰ってきましたら、あそこのかきねのそばをこちらへ、六十ぐれえの変なおやじが、人形をだいじそうにかかえながら、素はだし
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