にむさぼりながら、菜の花、げんげ、咲き乱れるのどかな春の日中の道を武蔵境《むさしざかい》にたどりついたときがちょうど午《ひる》の八ツ下がり――あれから街道をいよいよ青梅の宿に向かって、ようように目的の地へ行きついたのは、かれこれもう落日に間のないころでした。
しかるに、行きつくとただちに右門の目ざし向かったところは、関東尼僧寺の総本山なる青梅院《おうめいん》です。禅宗|曹洞派《そうどうは》の流れをうけた男禁制の清浄このうえない尼僧道場で、当時ここに仏弟子《ぶつでし》となって勤行《ごんぎょう》観経《かんきん》怠りない尼僧たちは、無慮二百名にも及ぶと注せられたほどでしたが、それかあらぬか、広大なる堂宇|伽藍《がらん》は、いまし、迫った落日の赤々とした陽光に照りはえて、伽藍を囲む築地塀《ついじべい》は、尼僧の清さそのものを物語るかのごとくに白々と連なり、しかも、伽藍のあわいあわいにおい茂る春の木、初夏の木、常盤木《ときわぎ》は、まこと文字どおりの青葉ざかりでした。
このようなところへ何しに、と思われましたが、しかし、院内へはいるかと思うとそうではないので、名人の微笑しいしい行き向かったと
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