ふをずばりと言い放ちました。
「なんでえ、いやに気を持たしゃがって、つまらねえ。これだから、おれあどうも欲の深い金満家とは一つ世の中に住みたくねえよ。欲が深いくせに、むやみとこのとおり、やることがそそっかしいんだからな。ね、おい、京人形のお大尽、もう蔵の中なぞ調べなくたって、天狗の正体がわかったぜ」
「えッ! じゃ、あの、三千両を持ち出したものは、やっぱり弥吉でござりましたか、それとも娘でござりましたか」
「だれだか知らねえが、おまえさんはたしかにこの戸の錠がおりていたといったな」
「へえい、二度も三度も、しちくどいほど申しあげたはずでござります」
「では、もういっぺんその戸を締めてみな」
「締めますよ。締めろとおっしゃいますなら、何度でも締めますが、これでようござりまするか」
「たしかに締めたな」
「へえい、このとおりピシリと締めましてござります」
「では、もういっぺん、そのままかぎを使わないであけてみろ」
「冗談じゃござんせぬ。ピシリと締まった戸前が、かぎを使わないであけられるはずはござんせんよ。大阪錠というやつは、締まるといっしょにトボソが自然と中からおりるのが自慢なんでござりま
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