、ふたりしてちょっくら神明前の吹き矢へ出かけていったんですよ。するてえと、あのお公卿さまが、からだのこまっけえ割合に、奇態に吹き矢を当てるんでね。そのときから、どうもちっとおかしいなとは思いましたが、まさか気がふれる前兆だろうたあ思いませんでしたから、なんの気なし連れだって、つい今そこまでけえってくるてえと、野郎め、やにわとねこの鳴き声を始めやがって、四つんばいになりながら、うちの庭じゅうを狂いまわりだしたんですよ」
「ねこにとりつかれるたあ変わっているな。まだやめずにやってるのかい」
「やめるどころか、ニャゴニャゴと黄色い声を出しやがって、いくらどやしつけても夢中になりながらはいまわっていやがるんでね。こりゃただの陽気当たりじゃあるめえと思って、あわくいながらお知らせに上がったんですよ」
 事実としたら、いかさま春先にちと様子が変でしたから、時を移さず伝六を引き具して、向こう横町なるふたりの配下のお小屋表へ駆けつけていってみると、なるほど、そこのあやめもつかぬまっくらな庭の中を、必死にあちらへこちらへとはいまわりながら、ニャゴウ、ニャゴウと、夜陰の空気をふるわせて、しきりと善光寺辰の
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