れるものですか! 娘がなくば、小判なぞいくらあったとて、なんの足しになるものか、なまじ手もとにあれば、てまえのあさましさ、娘のふびんさが思い出されてならぬと存じましたゆえ、一つは仏へのせめてもの供養に、二つには不浄の金ができるだけ役にたつよう、使い果たしてやろうと存じましたので、ふと思いつきまして、その日に、さっそくこの吉原へまず五千両を携えてまいったのでござります。と申しただけではまだご不審かも存じませぬが、おなごはやはりおなごどうし、娘へのたむけには、この廓《くるわ》でままならぬかごの鳥となっておられまするおかわいそうな花魁《おいらん》衆へ、わずかながらでもおこづかい金をもろうていただいたならば、これにました金の使い道はあるまいと存じたからでござります。さればこそ、形見の髪で人形をあつらえ、せめてもそれを娘と思うて、小判の供養をしたつもりでござりまするが、それさえあまり悲しゅうて、つい心が乱れていたあいだにしたことでござりますゆえ、どのようなお恥ずかしいとこをお目にかけましたやら、こうして気が晴れてみますると、ただただもう赤面のほかはござりませぬ」
「なるほど、そうか、よくあいわか
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