心喜んで、さっそくその者を養子に取り決めてしもうたのでござります。ところが、いざ婚礼をしようとなってから、どうしても娘がいやじゃというて聞きませなんだのでな。だんだんその子細を問い正してみると――」
「ほかに契り合うた恋人があったというのじゃな」
「へえい。まだおぼこじゃ、おぼこじゃと思うて、気を許していたうちに、いつのまにか、親の目をかすめまして、それも言いかわした相手がうちの手代の弥吉《やきち》じゃ、とこのようなことを申しましたのでな、腹が立つやら、情けないやらで、むやみとがみがみしかりつけたのでござります。だのに、どうしても娘は弥吉でなくてはいやじゃと申しまして、たとえ十万両持ってこようと、業平《なりひら》のような男であろうと、わたしが二世と契ったは弥吉以外ないゆえ、添わしてくださらなくばいっそ死にまするなぞと、思いつめたらしいことを申しましたので、ついてまえもカッとなりまして、それほど弥吉のようなやつが好きなら、三千両持たして連れてこいといってやったのでござります。すると、だんなさま、どうでござりましょう。そのあくる朝、弥吉めが、どこで才覚いたしましたか、正銘まちがいない小判で
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