げ方がはやりますのかね」
「次から次へと、よくいろんなとんきょう口のきけるやつだな。ひとり頭に小判を二枚ずつとかぎって、祝儀にしたところが、芯からの気違いじゃねえなによりの証拠だよ。ほんとうに気がふれてりゃ、三両も五両も金の差別はわからねえや。まてまて、今おれが気つけ薬を飲ましてやらあ」
いいつつ、ずかずかとそれなるいぶかしき老大尽の身近くに歩きよったかと思われましたが、こはそもいかなる気つけ薬を飲ませようというつもりでありましたろう――やにわに、ぎらりと鞘《さや》ばしらせたものは、あの蝋色鞘《ろいろざや》の細身なる一刀でした。しかも、抜くや同時に大喝《たいかつ》!
「ふびんながら、命はもらいうけるぞ!」
叫びざまに、老大尽の面前五分の近くへ、光芒《こうぼう》寒き銀蛇《ぎんだ》を一閃《いっせん》させたものでしたから、並みいる花魁群のいっせいにぎょッとしながら青ざめたのはいうまでもないことでしたが、しかし、その驚愕《きょうがく》はただの秒時――。
心底からの狂人ならば、白刃が鼻先へ襲ってこようと、矢玉が雨とあられに降ってこようと、びくともするものではあるまいと思われたのに、名人の看
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